OB訪問された話
汚い字で書かれた謎のハガキが届いた。
私が会社に入ってから3年目のある日だった。会社から帰宅すると全く知らない人から身に覚えの無いハガキが届いていた。
私は部活にもサークルにも所属せず、意図的非リア充として教室の隅と図書館の勉強机で惰眠を貪り、同会生という巨人の肩に乗り、最小限の努力で単位を取得して卒業したスーパーダメダメ学生だったので手紙を送ってくる者などいるはずがないのだが...と思いながら見ると、OB訪問の依頼であった。
どうやら同窓会が公開している卒業生名簿から私の所属している企業名を検索し住所氏名をゲットしてOB訪問の申し込みをしてきたらしい。
ハガキには住所とメルアドがあり、もしよろしくば是非とも志望動機や会社での仕事内容を教えて欲しいと書かれていた。
会うべきか、会わざるべきか?それが問題だ。
今思えば就活生という現実を見失い、催眠術の餌食となった学生に会うなどという愚行を私はすべきではなかったのだろう。そうだ、すべきではなかった。むしろしてはいけなかった。
だが、しかし、私は会社に入って約2年と3ヶ月、知名度も人気も無い民生電気機の製造と販売を生業とする企業でOB訪問を受けると言うのは滅多にない機会、そして出身大学の就活生というのを一度は会社員側の客観視してみたかった。ゆえに、メルアドに会っても良いよう。と馬鹿なメールを送ってしまった。
私は就活生にアドバイスするに値する人間か?
私はメールを送った後、後悔した。そもそも私は会社の明日を担って活躍すスーパーヒーローでもなければ部署の命運をかけたプロジェクトの舵取りを行う若手ホープでもない。
むしろ、社内では上司にどやされ、仕事ができぬつかえぬと言われる典型的なダメダメちゃんである。(※部署異動の後、慢性的な人手不足と歪んだ組織構造により不当な仕事量と管理職によるマネージメント放棄が発覚。私の仕事の不出来が必要以上に増幅される環境であったことを釈明しておく。)
俺、就活生にアドバイスできることなんかないぢゃん!?
会社では雑用ばっかりで、怒られてばっかりだぜえ。何言えばいいんだよ!?
実際に会ってみた。
それでも会った。そうだ、当時の私は手のつけようの無い阿呆であった自省している。
この場では就活生をK君と仮称する。
待ち合わせ場所を指定したうえで、K君と会った。汚い文字のハガキを送ってくるのであるからには、相当なブサメンを覚悟していたが意外にもフツメンであった。
K君と喫茶店に入り、いざ本題へ...
K君の履歴書の志望動機は空っぽでした。やりたいことも空っぽでした。
潔し!気に入った。志望動機なんてねえ!俺も友達に考えてもらったからな(約5割は自分で作成、約5割は友達の手を借りた)空っぽの履歴書を見てすぐに元気がなくなった。
てっきりハガキを送ってくるぐらいだから読むのに1時間くらいかかるような応募書類を持ってきてくれると思い込んでしまった。空っぽだったためアドバイスできることはなかった。
せいぜいできたことは...文語体で漢字だらけで書かれていた学生時代頑張った事を口語体で書くようにと伝えた程度だった。
何を話したか思い出せない。
私は約一時間半ほどK君と話したが何を話したか詳しく覚えていない。
ただ、彼が大学の就活セミナーなるものの受け売りで就活していることとメーカー業界志望だということは分かった。
何よりもばかばかしいと思ったのは、就活セミナーはOBOG諸氏が就職先の会社であたかも生き生きとやりがいを感じて活躍しているかのようにレクチャーの話が行われているということを聞いたときだった。
キャリ教育・就活セミナーという愚の骨頂
就活の面倒はOBが見てくれる。志望動機も教えてもらえるというような謎の都市伝説を流布させているのはいったいどこのどいつであろうか。そうだ、私の出身大学である。
そしてその大学生たちである。なぜ就活はかくもへんてこりんなんだろうか?
私は思う。就活が学生や企業にとって怪しげな儀式と化している要因の一因は、会社員でも無い大学職員の就職支援室の人達が社会人かくあるべし。大人のマナーかくあるべし。などと意味不明なキャリア教育を施していることにあろう。
そしてもう一つ、有名企業に内定した4年生を神かなにかのように崇めたてる学生内のミスター就活、ミス(あるいはミセス)就活@キャンパスという愚の熱狂も大きな原因と言えよう。
その就活は大学の中だけのものではないか?
大学生は仕事のやりがいとか志望理由とか会社の魅力とかいつも決まった事を聞いてくる。まるで誰かからそれ以外に聞いてはいけないと強制されているように思えてならない。そして、本当に大事な事は聞いてこない。会社でリストラはあるか?とか出世するとどうなるのか?とか...働きたくないとかそんな意見を言ってくれない。誰かから決められたことだけを言い、本当に自分が言いたい事や考えている事を表現したり、知りたい事をきちんとできていないんじゃないだろうか。僕はそう思う。